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 新方式の「運動法則の実験」の薦め

 私が行っている方式の「運動法則(第2法則)」の生徒実験の紹介をいたします。
これは、以前 「物理TA実験書」で紹介し、10年以上続けて実践しているものですが、他校での実践は余り聞かないようです。
 物理の基本は力学であり、力学の基本は運動の法則(第2法則)であることは論を待たないだろうと思います。しかし、どのくらいの高校でこの実験を生徒実験として定着してなされているのか 、心配です。
 なぜなら、記録タイマーを使ったよく知られた方法による実験では以下のようないくつの難点があるからです。

今までの難点

 (1) 一定力を出して台車を引くのが難しい。
 (2) 記録タイマーの抵抗力が無視できない。
 (3) 力の大きさや、台車の質量を変えねばならないため、条件を変えて数多くの実験をしなければならない。
 (4) テープの打点の解析から加速度を求めるためのグラフ描き等のステップ数が多く手間がかかる。
  これを何テープ分も行うにはかなりの忍耐力が必要である。
 (5) (実験)+(データの解析→a−F、a−mの関係のグラフ)を出すまでには1授業時間内に収まらない。
このため貴重な授業時間が費やされるのを嫌って、解析は家庭での宿題にするか、実験させること自体をあきらめてしまう。

私の過去の試み(試行錯誤)

 (1)については、ばね秤で引いたり、ゴム紐で引いたりしたこともあったが熟練を要するので、一定力で牽引するためのモータ用の定電流回路を作り、ボリュームで力を調整するようにしたが、力の大きさは生徒にとりブラックボックスになってしまった。
 (2)については打点式を改めて、放電式タイマーにしたが、(4)や(5)の難点の解消にはならない。
また、記録テープが高価で運動法則の実験のように大量にテープを使う実験には向かない。
 そこで記録タイマーの代わりに光センサーの間に透明縞テープを走らせて、単位時間の縞の数をポケコンで読み取らせることで(4)の解消もねらったが、定力モータと組み合わせたものだから、自分でもブラックボックスにブラックボックスを重ねた「サイボーグ」生徒実験に思え、結局何年か続けた後にこの方式はあきらめた。

たどりついた方法

 結局、シンプルな方法として、(1)の一定力は滑車を通して重りで引くことにした。
この場合問題となるのは、加速すれば台車を引く張力と重りにかかる重力とが異なることです。
これは、つるす重りの質量を加速される台車の質量に含めて考えることで解決できます。
 (2)については、記録タイマーのような摩擦のあるものを使わないこと、すなわち何も使わないことで解決しました。

 これは台車が初速度0の等加速度運動をすることを前提に、台車が距離1mを走る時間をストップウォッチで測定することから加速度aを式から直接計算します。
 これについては異論がでることが想像されますが、本校では、すでに記録タイマーを使った等加速度運動の実験を数回行っているので、加速度概念や等加速度運動の式に生徒は慣れているので問題はないと判断しました。
むしろここで問題となるのは、実験机の高さが1m以下のため、重りで台車を1m動かすことができない点です。これは滑車で重りの高さを上げることで解決しました。
市販の滑車は重いので、アクリル板の両端にタミヤのプーリセットにある軽い滑車を2個つけたものをスタンドで固定して使いました。

新方式の効果

 この方法の利点は想像以上です。まず直接、加速度が計算できるので解析処理時間が要りません。 また、生徒はストップウォッチを押すのが大好きなので、どんどん実験をやってくれます。(ストップウォッチは1/100秒まで計れるデジタル式です。)
本校では、力を4通りに質量を5通りに変え、それぞれ3回ずつ計27回実験させますが、 実験は30分以内に終わり、あとは計算とa−Fグラフとa−1/mグラフを書くことだけなので、実験の説明から始めて、グラフと考察を書いたレポート(プリント)提出まで、すべてのクラスで全班50分以内で完了しています。

実験精度

 この方式での誤差の最大の要因は時間測定ですが、台車の1m走行時間は1〜4秒なので、ストップウォッチでの測定で1/10秒程度の測定誤差があれば精度は有効数字2桁となります。(生徒はストップウォッチの操作が得意で誤差はたいてい1/10秒以内に収まるようです。)下は生徒の測定結果の1例です。
いずれの場合も台車の走行摩擦力のため、必ずグラフの延長が原点をはずれて少し下を通ることが分かります。

・このようにシンプルで定量的にもよい結果が得られ、かつ生徒の感想も「実験が大変楽しかった」と好評です。是非、各校で定番実験として採り入れていただけたら、と思います。

物理教育


・物理教育序論

・慣性力について(慣性力序説)

・慣性力はみかけの力ではない。(慣性力続編)

慣性力についての対話

・力はベクトルか?(力の正体をさぐる。)


・開口端で音波はどのように反射しているのか。


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・物理”診断テスト”と”運動についての常識概念”

物理実験


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